【サブ4〜3.5狙いランナー向け】カーボンシューズってどうなの?
この記事では、サブ3.5狙いの市民ランナー目線でカーボンシューズに関する考えをご紹介しています。
こんにちは、ヒロです。
今日はシューズのお話です。
フルマラソンのシーズンに突入し、去年と異なり、今年は大会も各地で再開され始めております。
その中で、永遠のテーマと言っても過言ではないシューズ選び。
特に、おそらく一度はランナーの皆様も検討されたことはあるのではないかと思われるカーボンプレートを内蔵した厚底シューズ。
その点について、今日は文献をご紹介しつつ私見を述べたいと思います。
カーボンシューズの適応としての私なりの結論としては、
・サブ4前後のランナーはオススメしない
・サブ3.5以上のタイムを狙う人は30km走した感覚で決める。
です。
ちなみに私は理学療法士という体に関する仕事をしており、走力としては2年前のフルマラソンで3時間41分、最近1人でしたハーフマラソンで1時間38分の中級くらいの市民ランナーです。
目次
カーボンシューズの歴史
今や箱根駅伝やオリンピックなど、トップランナーのほとんどが使用しているカーボンシューズ。
フルマラソンで有名になったきっかけは、やはりキプチョゲ選手とNike社の『Breaking2』でしょう。
2017年に初代ヴェイパーズームフライで記録した2時間25秒から始まり、2019年にヴェイパーフライ ネクスト%を使用して非公式ながら人類史上初めての2時間切り(1時間59分40秒)果たしました。
この出来事以降、箱根駅伝や国際マラソンなどでトップランナーがこぞってNikeを履き、厚底シューズが時代を席巻してきたと思われます。
ちなみに、カーボンは無しですが、厚底の元祖はおそらく、ジャン・リュック・ディアード&ニコラ・マーモッドが2009年に創ったHOKA ONE ONEでしょう。
このときは、衝撃吸収の厚底、推進力を維持するためのロッカーソール、バランスをとるためのワイドなソールなどかなり革新的なことをされていたようです。
※公式ページ内の原点紹介:https://www.hoka.com/jp/brand-origins-video.html
ただし、用途がエンデュランスレースやトレイルの下りをいかに速く駆け下りられるかだったようですので、フルマラソンのタイム短縮のためのシューズはそれよりも後に、カーボンXやカーボンロケットなどカーボンプレート内蔵のシリーズを作られています。
カーボンシューズの構造
最近の厚底シューズの構造上の特徴を整理しておきましょう。
まずはなんと言ってもソールの厚み。
外観からしてもかなりの厚みを持つシューズとなります。
この厚みにより、着地時の衝撃を吸収して、脚への負担を減らすと各メーカーは謳っています。
また、推進力を作るために大半のシューズで靴底が舟形をしたような形状で、足の重心移動が効率的になるように設計されています。
ソールの厚さという見た目に反して、軽量化が進んできており、200gを切るシューズが増えてきています。
肝心のカーボンプレートですが、ミッドソール部分に挿入されており、ズームフライプロトタイプを作成している時に計測された実験結果においては、コンプライアンス(物体が変形する大きさ)が従来の普通のソールに比べておよそ2倍だったようです1)。変形した物体は、元に戻る力を有しますので、この戻る力が反発力として走りに付加されていきます。
ですので、カーボンシューズは反発に関して正確に表現すれば、カーボンは従来のものより変形する大きさが大きく、大きな変形により元に戻る反発力が大きくなるという表現が適切だと考えます。
カーボンシューズの効果(先行研究)
カーボンシューズの特徴に関しては多くの先行研究で検証されています。
まずナイキのヴェイパープロトタイプを使用した調査では、10kmを32分以下で走る上位レベルの平均23.7歳のランナーを対象に使用した結果、ズームストリーク6,アディゼロのアディオスブースト2と比較して、地面に接地している時間は長くなること、ランニングエコノミーが4%改善したことを報告しています1)。
(※ランニングエコノミーの改善☞大雑把に言えば同じ速さで走った時の必要酸素量の減少)
CIGOJA, Sasa, の調査がめちゃくちゃ面白いんです!平均年齢26.6歳の10km44分以内で走る男性ランナー17名を対象に、ナイキフリーランに厚さの異なるカーボンファイバープレート(1mm,1.5mm.2mm)を埋め込んでナイキフリーランと比較して曲げ剛性の違いによる効果を検証しています。この中の結果で、各参加者により、最もランニングエコノミーが良い厚さは参加者によって異なり、その人にとってベストのものとナイキフリーランを比較した結果、※Erun(単位:J kg-1 m-1)は,1.97±1.81%(範囲:-0.79%〜4.71%)改善し、腓腹筋内側(ふくらはぎの内側)の短縮量が減少して収縮速度が遅くなり、アキレス腱から得るエネルギーが大きくなったことを報告しています2)。この点については、腓腹筋の収縮と前方に進むことによる足首の角度の増大(背屈)によって、アキレス腱が伸ばされてそこから戻る力が進む力に還元されるのだろうと考察されています2)。
※Erun:各条件の体格および走行の最後の1分以内に走った距離に対して,それぞれの走行の最後の1分で平均化した呼吸ごとのエネルギー消費量。
この2つで何が言いたいかというと、自分に合う硬さのカーボンシューズをうまく選ぶことができれば、エネルギー消費を抑えてタイム向上が狙えるということです。
ただし、諸刃のつるぎとは言いませんが、アキレス腱がよく伸ばされるため負荷が上がる可能性がありそうです。そのため、アキレス腱を痛めたり炎症を過去に起こした方、ふくらはぎに不安がある方、走る距離がそもそも少なくてふくらはぎの筋力が十分でない方にはあまり向かないのではないかなと思います。
またカーボンを抜きにした厚底の効果ですが、HOKAONEONE のHoka Conquest(ドロップ差6mm,重量321g)とBrooks Ghost 6(ドロップ差12mm,重量301g)を比較しており、時速14.5km/hといった高速でのペースになると、地面にかかる力と脚の荷重率が厚底であるホカコンクエストの方がブルックスに比べ10%程度大きかったとのことです3)。また、この論文内で硬い路面から柔らかな路面に移行する際、ランナーの脚は硬くなり、圧縮量が少なくなることで、好ましいバネ感を維持すると他の論文を紹介しています。これ原理はいまいちよくわかっていないらしいとのことで、人間の体の神秘を感じますね。
この論文から考えることですが、ある程度スピードを出して走ると厚底シューズは脚を楽にするのではなく負荷を上げる可能性があります。つまり、脚力を十分につけておく必要があるということですね。
実際の使用感
私は、HOKA ONEONEのカーボンxを使用してみました。
厚底の沈み込み感はそこまで強く感じませんでしたが、沈んだ後の反発・ソールの形状により足を前へ持っていかれる感が強いことはよく感じました。
普段ゼロドロップのアルトラを履いているだけに、これはかなり強く感じましたね。
また、脚の向きや体の傾きなどに注意を払っておかなければ、変な方向(横)へ推進力が逃げたり、上方向に強く感じたりと集中力が必要だなとも感じました。
あと、薄底で走る時に比べ、踏み込んでいる時間が長めに感じました。
※これは文献調べる前なので、偏見抜きですよ。
そんな感じでしたが、これでハーフのベストをセルフで更新し、25kmまで4:41/kmでいけました。
アルトラの時の5:00~5:10/kmで走っている感覚で、別にピッチを速くしたわけでもなかったので、おそらくドロップ差とカーボンの反発によりストライドが伸びていたのでしょう。
ちなみに、スピードを上げて4:15~4:20/kmで数キロ走ってみると、自分の脚力不足だと思いますが、靴に走らされている感があって制御しきれずフォームが乱れる感覚が強かったですね( ̄▽ ̄;)
逆に5:20~5:30/kmと遅めにしてみると、なんとなくですが前方への力になりにくく、変に跳ねると感じました。
そして、走り終わった後のふくらはぎとアキレス腱の疲労感は、六甲縦走キャノンボール(約43kmを9時間くらい)のトレイルを走った時に比べて強かったように思います。あと、前方への推進力をうまく利用するため、いつもより気持ち体幹を前に傾けていたことが影響したのか、それとも他の要因か、いつもより太ももの裏のハムストリングスの疲労感も強く感じました。
ですので、30km走以上のロング走で脚にどれくらいのゆとりがあるかという点を確認しておくことが重要と考えます。
上記の感じから、適度なスピードと脚力を必要とするシューズと考えられるため、5:40/kmくらいのサブ4前後のランナーにとってはその恩恵を受けにくい、もしくは扱いきれない可能性を感じます。そうなるとレース後半で脚が疲労して大失速してしまうリスクも懸念されます。
値段が高いシューズなので、サブ4ランナー向けの普通のシューズで十分と思います。実際私は3時間41分の時はカーボンシューズ ではなかったですし。
使用のコツ
サブ3.5狙いの凡人市民ランナーが考える使用のコツですが、何よりも力の方向を出来るだけロスせずに前方への推進力に変換することに尽きると思います。
前方推進力ですが、以下のように力の成分は垂直成分と水平成分からなります。
この合成された力を出来るだけ前方へ向けることが重要です。
そのためには、①着地の際の足の位置、②蹴り出しの際の膝の伸び具合がポイントと考えます。
まず着地についてですが、図の左側のように体より前方に着地すると、地面から後方へ力の成分が一瞬かかります。これはブレーキの成分となりますので、せっかくあるスピードを一瞬落としてしまうため効率的とは言えません。
ですので図の右側のように体の真下に近いところで着地して後方の成分を出来るだけ少なくすることがポイントです。
もう一点は蹴り出し。
図左側のように、膝が曲がっていると足から得た反発力が股関節・体幹にうまく伝達されない可能性が考えられます。
ですので図右側のように出来るだけ、膝を伸ばした状態で、足からの反発をうまく受け取る必要があると考えます。
最後に足の向き。
上から見た時に、図の左のように、やや外側につま先や膝・骨盤が向いてしまうと、せっかくの力が進行方向より外へ逃げてしまう可能性が生じると思われます。ですので、進行方向に骨盤・膝・つま先が向いているように注意しましょう。
まとめ
今日はカーボンシューズについての個人的な考えをご紹介させていただきました。
ポイントとしては、
・カーボンプレートの最適な硬さは個人によって異なる可能性がある
・ランニングエコノミーを改善するかもしれない
・アキレス腱の負荷は上がる可能性がある
・必ずしも脚の負担が減るわけではない(むしろ増えるかも)
・自分がコントロール可能なある程度のスピードが必要そう
・着地や蹴り出しなどに注意が必要
です。
何はともあれ、良いシューズであることは間違いありません。
私もカーボンX以外使用したわけではありませんので、ベースの脚を鍛えつつ、自分にあったカーボンシューズに巡り合えると嬉しいなと思います。
出典
1)HOOGKAMER, Wouter, et al. A comparison of the energetic cost of running in
marathon racing shoes. Sports Medicine, 2018, 48.4: 1009-1019.
2)CIGOJA, Sasa, et al. Increasing the midsole bending stiffness of shoes
alters gastrocnemius medialis muscle function during running. Scientific reports, 2021, 11.1: 1-11.
3)KULMALA, Juha-Pekka, et al. Running in highly cushioned shoes increases leg stiffness and amplifies impact loading. Scientific reports, 2018, 8.1: 1-7.