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ランニング

ランナーのふくらはぎを考える〜筋肉と腱〜

本記事は、ふくらはぎの筋肉と腱について運動学や解剖学の観点から私見を述べています。

 

こんにちは、ヒロです。

 

鯖街道ウルトラマラソンも中止になり、今年予定していた大会がとりあえず今は無くなってしまいました。

 

まぁでもこの期間をうまく利用してレベルアップをしたいなと考えているので、目的を持って継続していきたいなと思っています。

 

さて、その中で前から気になっていたこと。

 

長距離になるとなんかふくらはぎが張ったり、つったりする…

 

そして、あまりにひどい時は、数日〜数週間なんか踵付近に違和感が出たり…

 

皆様もこんな経験、一度はされたことあるのではないでしょうか?

今まで、ずっと感じていたこの問題について、何回かに渡って整理しようと思います。

 

今日は、ふくらはぎの筋肉と腱の構造という観点から整理したいと思います。

 

ふくらはぎにある筋肉とアキレス腱周囲のこと

 

まずは、この周辺の組織について整理しておきましょう。

※Theobald, Peterらの報告を参考にしています1)

 

メインの筋肉は下腿三頭筋と呼ばれます。膝関節をまたいで足につく腓腹筋(外側頭と内側頭)と、スネの裏(脛骨後面)から足につくヒラメ筋の計3種類からなるためこう呼ばれています。3つの筋肉はアキレス腱となって骨についています。この筋肉の主な働きは、爪先立ちなどやジャンプの踏切などつま先が下へ向く際のパワーを発揮したり、着地の時にスネの骨が前に倒れて膝が曲がってしまうのを防ぎます。

ふくらはぎの筋肉の構造
足部の外在筋(後側)
ふくらはぎの筋肉を横から見る
下腿の筋(横から)

そして、アキレス腱と骨との間には、脂肪体や滑液包という組織が存在します。これらの組織が痛みや違和感に関わってきます(これはまた後日説明いたします)。

 

※足趾の筋などは今日は割愛します。

 

筋肉はそもそもどんな働きをしているのか?

 

はったり攣ったりを理解する上で、まず筋肉が力を出す仕組みについて理解しておく必要があります。

 

筋肉は、下の写真のように細かい繊維が束ねられた構造になっており、各線維が伸び縮みすることで力が生まれます。細かい繊維には筋肉の伸びを感知するセンサーが存在しており(筋紡錘)、センサーが反応することで筋肉が縮むように指令を出しています。また、骨と筋肉を繋ぐ腱と呼ばれる組織にもセンサーが存在しており、腱の伸びを感知して筋肉の力を抜く指令を出しています。これらの指令は神経により脊髄や脳へ送られ情報を処理されます。これらの働きのバランスにより筋肉は力を出したり抜いたりしており、これを専門的に言うなれば、「収縮」「弛緩」と言います。また、筋肉は腱を介して骨についているため、この伸び縮みの力によって骨が動き、関節運動が生じることとなりますし、逆に骨が重力環境下で傾いたりすることでこれらの反射を刺激し、筋肉の収縮を生じさせるとも考えられます。

筋肉の収縮様式・腱との付着
筋肉の繊維と腱

 

筋肉が力を出すには?

 

筋肉が出す力を筋力と言いますよね。これ何のことを言っているか整理しましょう。

 

先程の説明のように、筋肉が収縮することで筋力が生まれます。この筋肉の収縮には以下のような種類があります。

 

①等張性収縮:筋肉の長さが短くなるような運動(つま先立ちを繰り返す時のふくらはぎ)

 

②等尺性収縮:筋肉の長さが同じ状態でキープしている(つま先立ちをキープする)

 

③遠心性収縮:筋肉のブレーキ力を超えて関節が動く(つま先立ちがキープ出来ずズルズル踵が下がる時)

 

代表的にはこれらの収縮様式があります。

ちょっとカッコ内の例は厳密には異なるかもしれませんが、ふくらはぎについて言えばこんな感じとイメージしてください。

 

これを負担の強い順に並べると、③→②→①となります。

 

そして、筋肉は長さによって出力される力が異なります。筋肉の繊維は伸びすぎても縮すぎても力が十分には出ず、適度な長さの時に効率よく筋力が発揮されます(下図)。

長さー力曲線
長さー力曲線の模式図

さらに、ここに腱の要素が加えた弾性体としての特性が長距離ランにおいてとても大事なポイントと考えます。弾性体、つまり伸びたものが元の長さに戻る際に発揮される力です。

それでは、この点について説明していきましょう。

筋肉と腱はセットで力を効率よく出す

 

筋肉と腱は基本的にセットで考えます。

 

筋肉は伸び縮みする特性を持っているためゴムのようなイメージを持ってもらえると良いと思います。そして、腱は筋肉よりも硬く伸びにくい素材となっています。この差が一つのポイントとなります。

 

筋肉はずっと高強度で働き続けると、エネルギー(糖質や脂質など)を過度に使用するとすぐにバテて長持ちしません。最小限の力となるような仕組みがあるから長距離走などの運動ができるわけです。その点に貢献しているのが腱であると考えます。

 

Fukunaga, Tetsuoらは、超音波と筋電図を用いた、歩行中の筋と腱の動態を調べています。その結果、筋肉はほとんど長さを大きく変えず、最小限の働きを示したのに対し、腱は片脚立ちになるあたりから足を振り上げる直前まで伸び続け、上げた瞬間から急激に縮むことが明らかになりました2)。

 

これすごいですよね!最初聞いた時はおーーっと思いました。

 

ここからは私の解釈も交えてもうちょっと具体的に走ることに当てはめていきたいと思います。

 

この報告で何がおーーっとなるかと言うと、めちゃくちゃ効率的な運動を実現していたことです。

 

筋肉の長さが変わらないということは、筋肉としてはほとんど働かなくて良い=余分なエネルギーを消費しないということです。実際この報告の中での筋電図波形も強い波形が継続するのはごく短時間です。そして、腱は硬いその特性を生かし、足首の動きに伴って、自分で伸びるのではなく周りの影響で伸ばされることによってパワーを蓄え、最大にたまり切った時に足を地面から少し離すだけで、戻ろうとする腱のバネの力が蹴り出して前方へ進む強いパワーへと変換されるのです。例えるなら、トランポリンが腱な感じですね。

トランポリン
腱はトランポリンのように働く

簡単にまとめると、

 

腱が伸ばされて戻るときのパワーをうまく利用することで筋肉のパワーを最小限に抑える

 

という素晴らしく効率の良い動きが実現されるのですね!あーすごい!!

 

まとめ

今日はランナーのふくらはぎについて考えるシリーズの、大事な大事な基礎であるふくらはぎの組織とその働きについてまとめました。

point

 

・ふくらはぎの筋肉は下腿三頭筋

 

・筋肉はアキレス腱となって骨につく

 

・アキレス腱のおかげで筋肉の働きを減らした効率の良い動きが実現される

 

次回は実際に走る動作について、もっと力学・運動学的な観点からふくらはぎについて考えてみたいと思います。

 

出典

1)Theobald, Peter, et al. “The functional anatomy of Kager’s fat pad in relation to retrocalcaneal problems and other hindfoot disorders.” Journal of anatomy 208.1 (2006): 91-97.

2)Fukunaga, Tetsuo, et al. “In vivo behaviour of human muscle tendon during walking.” Proceedings of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences 268.1464 (2001): 229-233.